ウィスキーのビジネス

1世紀の歴史を持つファミリービジネス家業に、2人の兄弟が新しい命を吹き込む
ティーリング・ウィスキー蒸留所のカフェで蒸留したてのウィスキーを試飲するジャック&スティーブン・ティーリング
ジャック&スティーブン・ティーリング
ティーリング・ウィスキー社の、オーナー兼共同創設者

もしかすると、ジャックとスティーブン・ティーリング兄弟の血管にはウィスキーが流れているのかもしれません。一族がもつウィスキー蒸留に対する情熱は、祖先の一人、ウォルター・ティーリングが自由な雰囲気のリバティーズ地区で家族最初の蒸留所をオープンさせた1782年に歴史を遡ります。創業後2世紀にわたって成功を収めましたが、アイルランドのウィスキー市場を席巻したジェームソン家に売却され、その後アイルランド産ウィスキーに対する世界的需要の減少により閉鎖となりました。

230年以上経ったいま、ティーリング・ウィスキー社の設立をもって、蒸留の技術を家業として受け継ぐティーリング家は復活しました。顧客となる、世界でも屈指のミクソロジストたちの手に少量ずつ届くアイリッシュウィスキーは、125年ぶりにダブリンにオープンした蒸留所です。

ティーリングウィスキー蒸留所にて、手書きのタイムラインがダブリンのアイリッシュウィスキーの歴史を説明します。
時代の終焉
そして新たな幕開け

かつてアイリッシュウィスキーは世界で最も人気のあるお酒で、ダブリン産のボトルが世界市場の60%を占めていました。しかし、1923年にアイルランドの内戦が終わった後、十年の禁令が続きました。その後、酒類の輸出に大規模の貿易制限が加えられたことで、ダブリンの蒸留所は活力を失い、1976年には最後の運営者までもがその幕を下ろしたのです。

数年後、1987年にハーバード大学でアイリッシュウィスキーの衰退とスコッチウィスキーの繁栄について学位論文を書いたジャックとスティーブンの父、ジョン・ティーリングは、今一度、ビジネスを再開する決意をしました。街の北部郊外にクーリー蒸留所をオープンした時には、アイルランド全土にウイスキー生産者が2軒しかなかったそうです。

現在のティーリングウィスキー蒸留所は、1782年にウォルター・ティーリングによって創業されたティーリング蒸留所からわずか100メートルほどの場所に佇みます。
再現された蒸留酒
ファミリービジネスの復活

クーリー蒸留所は、1980年代後半に少量生産と革新的なウイスキー製造技術をアイルランドに持ち込みました。ティーリング兄弟は、ジムビームとメーカーズマークの親会社であるビーム・インターナショナル(現ビーム・サントリー)がクーリー蒸留所を9,500万ドルで買収する2011年までは、父親の蒸留所でビジネスを学び、味覚を研ぎ澄ませる鍛錬を積みました。

しかし、ジャックとスティーブンはすぐにウィスキーを諦める気持ちにはなれませんでした。家業を継ぐという意志のもと、彼らは自社を設立し、ビームから購入したクーリー社の16,000本のウィスキー樽で独立系手作りの一家の商標を復活させることとなりました。

ティーリング・ウィスキー社内にあるザ バン バン バーでは、テイスティングセットやウィスキーベースのカクテルなど、ティーリング社のウィスキーを使ったドリンクを提供しています
完璧な一口
ティーリング・ウィスキー社にて

現在、ティーリング蒸留所はウォルター・ティーリングの最初の蒸留所からわずか100mの場所に位置し、ダブリンで唯一営業している特別な蒸留所です。ウィスキー愛好家や熱心なファンが、街中の蒸留所の音、匂い、味、そして感覚を体験しようと集まる活気ある場所となっています。館内を見学した後には、蒸留所内にあるザ バン バン バー(リバティーズ地区の色彩やかな個性にちなんで命名)でのお飲み物が、兄弟のおすすめです。ティーリング社のアイリッシュウィスキーなど、完全なポートフォリオを持つ様々なカクテルや、テイスティングセットを提供しています。ウィスキーが樽の中でゆっくりと熟成されていく蒸留所で、趣のある体験です。

地元のおすすめ情報

ティーリング兄弟と巡るダブリン

ダブリンの、文学に深い繋がりのあるパブから地元の民俗博物館、伝統的なアイルランド料理、ゲールのスポーツまで、ティーリング兄弟によるダブリンのおすすめをご覧ください。

文学に深い繋がりのあるパブ

アイルランドの名高い作家が通ったバーへ

グラフトンストリートの近くにあるケホーズ(9 S. Anne St.; +353-1-677-8312)は、1803年にその歴史を遡る本格的なアイルランドのパブです。内装のほとんどが当時の姿のままで、19世紀末に完成したビクトリア調のインテリアは、ステンドグラスのドア、華やかなカーテン、そして暗いマホガニーのバーが特徴的です。このバーにはかつてパトリック・カバナ、ブレンダン・ビーアン、そしてブライアン・オノランなどの地元の小説家、詩人、劇作家が集まりウィスキーを片手に語り合いました

このケホーズのように、文学的な繋がりのあるダブリンのパブの歴史は長く、1823年にオープンしたザ パレス バー(21 Fleet St.; +353-1-671-7388)には、ビールと楽しいひとときを求めてアイルランド人作家たちが集まりました。1940年代から50年代には、ロバート・メーレ・スミリン(アイリッシュ・タイムズの編集者)や、その他数え切れないほどの編集者、特派員、ニュースマンが贔屓にしたこともあって、ザ パレス バーは新聞記者連の関係者の社交場として好まれました。

現在パレスバーの2階にあるほの暗いバーでは、アイルランド産ウィスキーのみが棚に並べられた囲まれ、このパブのウィスキーファン達に出会えることでしょう。また、オリジナルのシングルモルトは必見です。

ウィスキーとシガー

最高の組み合わせを見つけましょう

135年にわたり4世代で第1次・第2次世界大戦や不況などを経験してきた、ジェームズ・フォックスのシガー&ウィスキーストア (119 Grafton St.; +353-1-677-0533)は、世界最古の家族経営のシガーショップで、今もなお手作りのプレミアムパイプやウィスキーを求めるダブリンの人々に愛され続けています。なかでもヴィンテージ製品の、1984年 パルタガス ルシタニアス、ロメオ・Y・ジュリエッタ、プリンス・オブ・ウェールズのシガーは、ティーリング・プラチナムリザーブ・30年 シングルモルトと、とても良くマッチします。フォックスでご提供する葉巻はすべてアルネスト・アギレラによってキューバで作られたヒュミドール(葉巻を保管する専用の箱)で保存されています。

アイルランドの一滴をお持ち帰りたい方は、セント・スティーブンス・グリーンのすぐそばにあるセルティック・ウィスキー・ショップ (27-28 Dawson St.; +353-1-675-9744)にお立ち寄りください。そこでは世にある全てのアイリッシュ・ウィスキーを見つけることができます。ショップのユニークなコレクションは、最も先進的なコレクターにも喜ばれます。

地域の宝物

ダブリン目線だからこそ特別な歴史博物館

セルティック・ウィスキー・ショップの真向かいには、街で最も愛されているアトラクションのひとつでもある、ザ リトル ミュージアム オブ ダブリン(15 St Stephen's Green; +353-1-661-1000)があります。トレバー・ホワイト監督とサイモン・オコナー館長によって、展示スペースは記念品や物語、そしてダブリンの街を代表する様々な物でいっぱいになっています。中には1900年から21世紀初頭に登場した著名人も。

博物館に収蔵されている5,000点の中には多くの貴重な作品があります。ビクトリア女王のダブリン訪問を1900年に記録した写真、 ジェイムズ・ジョイスによるユリシーズの初版、そしてバンドのU2だけに特化した部屋など、全てはダブリンの人々から直接寄贈もしくは貸与されたもので構成され、まさにアイルランドの首都の物語を国民の声で伝えるような展示となっています。地元の歴史とのつながりが博物館の主な焦点であるため、最新技術を駆使したようなツアーは実施しておらず、知識のある地元のガイドがお客様を発見の旅へとお連れします。ツアー終了後には、博物館の「City of a Thousand Welcomes」イニシアチブの一環として、地元のおすすめやお話をしながら無料で紅茶、コーヒー、またはビールをご提供しています。

ゲームを始めましょう

アイルランドの国技でアクティブな1日

体を動かすことが好きでユニークなアウトドア体験を求めている方には、街の郊外にあるエクスペリエンス・ゲーリック・ゲーム(Na Fianna GAA Club, Glasnevin; +353-1-254-4292)でアイルランドのスポーツを遊びながら学べる体験がおすすめです。ゲーリック・フットボールという、サッカーとバスケットボールを合わせた様なスポーツや、ハーリングという、ラクロスと野球を合わせてさらに過激にしたような、この2種類の3,000年もの歴史を持つスポーツを学びます。

フィールドに出る前には、フレンドリーな認定コーチが各スポーツの基礎や歴史の重要さを説明します。その後に実際にプレイするときこそが、この体験の醍醐味です。

カムデンストリートのデラハント

歴史的なルーツを持つ贅沢なダイニング

街中の見どころを探索する長い一日を過ごした後には、食欲もわいてくることでしょう。風味豊かなアイルランドの食材を使ったモダン料理なら、セント・スティーブンス・グリーン近隣の、デラハント(39 Camden St. Lower.; +353-1-598-4880)へ向かいましょう。ダブリンの中でも特に人気のあるこのレストランは、かつてハイエンドの食料品店であった歴史あるビクトリア様式の建物にあります。また、「カムデンストリートのデラハント」は、ジェイムズ・ジョイス著のユリシーズの中に「ポルトワインとシェリー酒とキュラソー」や「大きな骨付き肉の冷製とミンスパイ」が紹介されています
タルタル、牛タン、骨髄を使ってクレソンとカブのピクルスを添えた「鹿のトリオ」、そしてムール貝、根セロリ、ほうれん草、りんごとクリーミーなバターミルクソースを添えた鯛のような「ヘイクのロースト」などのお料理があなたの味蕾を刺激することでしょう。デザートには、ピスタチオスポンジとカルダモンカスタードが絶妙なルバーブのトライフルや、塩キャラメルのアイスクリームを添えた温かいチョコレートプディングが最後まで楽しませてくれます。