ジェラートを夢見て

ローマのスイートスポットを発見したジェラート職人
マリア・アニェーゼ・スパニュオーロはジェラート作りに豊かな発想を取り入れます。
マリア・アニェーゼ・スパニュオーロ
ファタモルガーナ ジェラートのジェラート職人兼オーナー

イタリア南部のアプリア地方で育ったマリア・アニェーゼ・スパニュオーロの周りには、常にフルーツやナッツの木がありました。イチジクや桃、アプリコット、アーモンドの香りに包まれたこの土地が、彼女の味覚や触覚、嗅覚を育てたのです。

スパニュオーロに刺激を与えたものは他にもあります。それはイタリア式のアイスクリーム、ジェラート。美味しいジェラートのフレーバーは、チョコレートやバニラ、ピスタチオ、レモンなどの伝統的なものが主流でした。そこで彼女は、自分で新しい味を作ろうと考えました。わずか10歳で、母親のアイスクリームメーカーを使って新しい味作りに挑戦します。スパイスやフルーツ、花などを加えてみると、それまでには味わったことのないフレーバーのジェラートができました。まるで、木々の香りに包まれているような感覚でした。

ファタモルガーナは、従来のレシピにとらわれず、新しいフレーバーの組み合わせに挑戦することで知られています。
水平線に浮かぶ夢
ここからが本番

大人になったスパニュオーロは、ジェラート作りは趣味として続け、女優としての道を歩き始めました。そしてヨーロッパの様々な土地を訪れながら、行く先々でいつもジェラート店を探しました。

2001年にローマに移り住んだときの、インターネットでのある発見が彼女の人生を変えます。ローマ市内で新たな事業を始める女性に助成金が支給されることを知ったのです。今こそ、母親のアイスクリームメーカーでジェラートを作っていた子どもの頃からの夢を叶えるべきと、背中を押されたような気分になりました。ジェラート店の名前はすでに「ファタモルガーナ」と心に決めていました。ファタ モルガーナは、イタリア語で蜃気楼を意味し、彼女がシチリア海峡で見た水平線上の蜃気楼にちなんでいます。

マリア・アニェーゼ・スパニュオーロが開発したジェラートのフレーバーは300種類にのぼり、その数は増え続けています。
慣習を打ち破る
新たな創造に挑戦

ジェラテリアを開く際にマリア・アニェーゼが目指したのは、自分の思い描いたアイデアを形にすること。熱い情熱と上質な素材でナチュラルなデザートのあるオアシスをつくり出すという夢の実現です。

彼女の夢は実現しました。今ではローマに7店舗を構え、2017年には初のアメリカ支店がカリフォルニア州ロサンゼルスにオープン。ロサンゼルス店は、ジェラート作りのキッチンがすべて見える設計になっています。

フローズンデザート界の慣習を打ち破り続けているマリア・アニェーゼの武器は、「生成技術」。100%自然成分のものであれば、どんな材料からでもアイスクリームを作れるという技術です。

ジェラテリア「ファタモルガーナ」はローマに7店舗あります。2017年には初の米国支店がロサンゼルスにオープン。
味の冒険
意外なフレーバー

思いもよらぬ組み合わせで見事な味を生みだすマリア・アニェーゼは、「アイスクリームの妖精」と呼ばれています。「ウバ エ ノッチ」は、古代ローマの味を取り入れた、ブドウ(ウバ)とクルミ(ノッチ)の濃厚なフレーバーのジェラートです。現代ローマをテーマにしたフレーバーは、定番の味に新しい要素をミックス。3種類のチョコレートにワサビ、インドのスパイスミックス、そしてショウガで辛みを加えています。

店頭には常に60種類以上のフレーバーが並び、300を超えるレシピ数は今も増加中。「ファタモルガーナ」は、ローマの街と同じように進化し続ける、とマリア・アニェーゼは言います。

彼女のレシピで最も魅惑的なフレーバーは? 「カーマ スートラ」。フェンネルとハチミツに隠し味として加えたリコリスが舌を刺激します。

地元のおすすめ情報

ローマ観光のレシピ

マリア・アニェーゼ・スパニュオーロのローマでのお気に入りスポットは、彼女が作るイマジネーション豊かなジェラートと同じように多彩です。とびきり風変わりなエリアからモダンアートの穴場まで、永遠の都ローマを味わえるとっておきの場所をご紹介します。

エリアガイド:モンティ

暮らすように旅する

いま注目を集める、かつての花街、モンティ地区。古い情緒を感じさせるこの通りはコロッセオからほど近く、若いオーナーの話題のショップやバー、レストランが並ぶトレンディなエリア。ルネッサンス時代に作られた噴水の周りでは、流行の最先端を行く人々が地域の住人と並んで座る姿が見られます。モンティ地区の社交場、モデナ広場です。

モンティ地区の雰囲気を愛するマリア・アニェーゼは、「ファタモルガーナ」の3号店(5 Via degli Zingari、+39 06 4890 6955)を、マリオ・モニチェリ監督の1958年の映画「いつもの見知らぬ男たち」(原題「I Soliti Ignoti」)の舞台となった場所にオープンしました。

クラフトカクテルと生演奏を楽しみたい方は、「ブラックマーケット(101 Via Panisperna、+39 339 822 7541)へどうぞ。インディーズのミュージシャンたちによる演奏が目の前で繰り広げられます。のんびりとランチをするなら「アロマティカス(134 Via Urbana、+39 06 488 1355)へ。健康的なメニューを中心としたこのカフェはガーデニングショップも併設しているので、インテリアにぴったりな香りの良いハーブの鉢植えなどを購入することもできます。

新しいコミュニティが生まれ続けるモンティ地区ですが、昔の風情を遺した場所もあります。多くの人が訪れるサンタ マリア デイ モンティ教会(41 Via della Madonna dei Monti、+39 06 485 531)は、特に歴史の息づく場所です。16世紀の見事なフレスコ画で飾られた内装を誇る教会。その建築までに至った伝説は今もこの地で語り継がれています。それは13世紀のこと、廃虚となった修道院から傷一つない聖母マリア像が発見されました。16世紀には、盲目の女性がそのマリア像に祈ったところ、再び目が見えるようになったといいます。その話が広まると次々に寄付が集まり、現在の教会が建てられました。奇跡を起こした聖母マリア像は、この教会の祭壇に祀られています。

ローマのモンティ地区。写真提供:モヤン・ブレン

新しいものを求めて

伝統と革新を融合する

古代と現代が見事に融合するキオストロ デル ブラマンテ(5 Via Arco della Pace、+39 06 6880 9035)では、16世紀に建てられた修道院でモダンアートを展示しています。1997年に改修工事が行われ、一般に公開されるようになったキオストロ。以来ここは20年にわたってキュレーターの企画による展覧会を開催し、国内外のアートギャラリーとしてローマ有数の存在に成長しました。素晴らしい建築を使ったこのアートセンターでは、ジェームズ・ティソからジャン=ミシェル・バスキア、マルク・シャガール、マウリッツ・エッシャー、アンディー・ウォーホルまで、多岐にわたるアーティストの展覧会を開催しています。
国立21世紀美術館、通称「MAXXI(4A Via Guido Reni、+39 06 320 1954)は、歴史的な建物を改築したローマの大抵の美術館とは違い、新たに建てられた美術館です。完成までに10年の月日を要したイタリア初の国立現代美術館は、2010年にモンテッロ兵舎跡地にオープンしました。

ローマの国立21世紀美術館、通称「MAXXI」の風景。写真提供:hillman54

ショッピング セラピー

多彩なショップ

ローマの有名なショッピング街にはコンドッティ通りやコルソ通りなどがあり、いつも多くの人々で賑わっています。しかし、どこを歩いても楽しいローマの街には、ウィンドウショッピングや買い物に最適なエリアが他にもたくさんあります。

アンティーク好きなら、ナヴォーナ広場近くの情緒あふれるコロナーリ通りへどうぞ。中世にはロザリオ店が並んでいたこの静かな通りは、現在は古書やビンテージの服、ジュエリー、アート作品などを売る上質なアンティーク店が点在しています。

スペイン広場とポポロ広場の間にあるマルグッタ通りは、映画監督のフェデリコ・フェリーニを始め数々の有名アーティストが住んだ地域として知られ、今も多くの芸術家が暮らしています。このマルグッタ通りの51番地は、映画「ローマの休日」の中で、グレゴリー・ペック演じる新聞記者ジョー・ブラッドレーが住んでいた場所です。クリエイティブな刺激を受けられるのは、現代美術ギャラリーのギャレリア ヴァレンティーナ モンカダ(54 Via Margutta、+39 06 320 7956)。現代アートの名作や新進気鋭アーティストの作品などを扱っています。ファッショナブルなイル マルグッタ リストルアルテ(118 Via Margutta、+39 06 3265 0577)は、ローマのベジタリアンレストランの先駆け的存在で、モダンアートに囲まれて芸術的な料理を楽しめます。

コンドッティ通りの眺め。写真提供:NovoaR

黄昏時の美しさ

ヴァラディエからの眺望

ボルゲーゼ公園のピンチョの丘頂上に佇む19世紀の風格ある建物、カッシーナ ヴァラディエ(Piazza Bucharest, Villa Borghese、+39 06 6992 2090)。ここでは盛大なプライベートイベントが数多く催されています。ため息が出るほど美しい黄昏時の景色で名高く、眼下に広がる永遠の都ローマを見渡せるベストスポットの1つです。

屋上レストラン「ヴィスタ」にある4つのダイニングルームの1つは、プロポーズの場所として高い人気を誇ります。一面に広がるローマの街並みを背景にプロポーズすれば、きっと熱烈な「イエス」の返事をもらえることでしょう。

カッシーナ ヴァラディエの展望レストランからの眺め。写真提供:カッシーナ ヴァラディエ

不思議な美しさ

思いがけない街角スポット

コロッセオ、スペイン階段、パンテオンを巡った後、有名な建造物を離れてひと気のない場所を散策してみると、思いがけない風景に出会えます。

ローマで特に意外性のあるエリアと言えば、1人の建築家の空想を具現化したローマ北東部のトリエステ地区です。フィレンツェの建築家ジーノ・コッペデが空想的なデザインを寄せ集めて設計したクアルティエレ コッペデは、1900年代初期に建設されました。ローマのバロック様式や中世の趣を反映した建物群は古代ギリシャの影響が色濃く、コッペデの時代に流行したアールヌーボーやアールデコ様式に真っ向から対峙しています。

どのブロックにも、コッペデのウィットに富んだ奇抜な芸術センスが表れ、意外性溢れる建物が建ち並んでいます。中でも特筆すべきは、広場中央にある噴水「蛙の泉」と、「蜘蛛の館(4 Piazza Mincio)です。この館の入口上方には、巣にしがみつく蜘蛛が描かれた金のモザイク画が飾られています。

ジーノ・コッペデが設計した「蛙の泉